ミトコンドリアのお話を始めしょう

 前回も書きましたが、生物が生命活動にはエネルギーが必要でした。つまり、電気に例えれば、電気を貯蔵するバッテリーに相当する『ATP』を合成する必要がありました。生物は、ATPに蓄えたエネルギーを使って生命活動を営んでいおり、ATPは生物にとってのエネルギー貯蔵庫であり、通貨でした。

ATPはエネルギーの貯蔵庫であり通貨でもある

乳酸菌や酵母のように酸素を用いずにATPを産生する場合、ブドウ糖180gを燃料として、わずか2つのATPしか作れませんでした。それに対して『ミトコンドリア』は、酸素を使って効率的にATPを産生する極めて優れた細胞内発電機ですから、180gのブドウ糖から38個ものATP、つまり乳酸菌や酵母より19倍も燃費が良い計算になります。

動物細胞

 中学時代に、上の図に見た覚えがおありでしょうか?動物細胞を模式化して書いたものです。細胞の内部にある様々な器官を『細胞内小器官』と呼びます。そのうち、赤矢印で示しているのがミトコンドリアです。

 誰かから、ミトコンドリアは大昔に細胞に寄生したのだというお話を聞いたことがありませんか?寄生というと、怖い、病気というイメージがあるかと思いますが、生物学上は『共生』という言葉を使います。共生、正確にはミトコンドリアの『細胞内共生説』という概念を1967年に、ボストン大学のリン・マーギリュスの研究グループが提唱しました。

 確かにミトコンドリアの御先祖様の細菌は、単独で生活していたようで、その痕跡を残しています。その痕跡の一つは、ミトコンドリアが独自のDNAを持っていることです。

 共生と寄生は明確に違うものです。寄生は、寄生側だけが利益を得ますが、共生はお互いが利用し合って共存していくことです。細胞がミトコンドリアが必要とするタンパク質などをミトコンドリアに与え、ミトコンドリアは作ったエネルギー(ATP)を細胞に与え、生命維持のエネルギー源にしているのです。つまり、共生することでミトコンドリアにも細胞にもそれぞれ利益があるわけです。

 話は逸れますが、瀬名秀明先生が書かれた『パラサイト・イブ』という本があります。1995年の著書で、私は学生時代に読んだ記憶があります。執筆当時、瀬名秀明先生は東北大学大学院で研究をされていました。本の内容は、ある理由で(詳しく書くとネタバラシになるので触れませんが)体内でミトコンドリアが反乱を起こすという内容でした。実際に、研究をされている方が書いている本ですから、研究手法の描写も非常にリアルに表現されていました。文庫本が売られているようなので、興味がある方は是非読んでみてください。

パラサイト・イヴ (新潮文庫) [ 瀬名秀明 ]

 『パラサイト・イブ』のパラサイトは寄生するという意味です。ミトコンドリアが細胞への寄生者であるとの意味で用いたのでしょう。実は、『イブ』という言葉にも大きな意味があります。当然のことですが、ミトコンドリアは男性も女性も持っています。しかし、受精の時に、男性のミトコンドリアDNAは卵子の機能によって殺されてしまいます。そのため、ミトコンドリアのDNAは母方からしか伝わりません。つまり、ミトコンドリアは全て母親由来なのです。これをミトコンドリアの『母系遺伝』と呼びます。

 1987年、カリフォルニア大学バークレー校レベッカ・キャンらのグループは100名以上のミトコンドリアDNAを調査し、その起源を調べました。彼らは、15万年前に、アフリカから現在人の祖先が全世界に広がったとする「単一起源説」を提唱しました。

 他の研究グループも、別の手法を使ってミトコンドリアの祖先探しが行われたが、15万年くらい前まで遡ることから、現代人が持つDNAの起源がおよそ15万年前という説は間違いないと思われます。そして、その起源となっていたミトコンドリアを持っていた女性を旧約聖書になぞらえて『イブ』と名付けたのです。

 最近の研究で『母系遺伝』という考え方に、例外が存在することが報告されました。このように、研究の進歩で、それまでは正当であると思われていた理論が覆されることが多々あります。『母系遺伝』が覆された話は、ミトコンドリアの働きを説明してからまとめてみたいと思います。



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