根治の方法が確立していない難病『ミトコンドリア病』

 お話ししてきた通り、ミトコンドリアは生命現象維持のために必要なエネルギーを作り出してくれる器官です。この生命維持に欠かせないミトコンドリアが原因で発症する疾患に『ミトコンドリア病(指定難病21)』という病気があります。

エネルギー生産工場のミトコンドリアの機能低下が疾患の原因になる

 この病気は、ミトコンドリアのエネルギー産生能力が低下し、組織・器官が機能を発揮するために必要な十分なエネルギーを供給できなくなるために起こると考えられています。特に多くのエネルギーを必要とする、筋肉や脳でその症状が現れやすい疾患です。

 ミトコンドリア病は遺伝子疾患です。遺伝子変異が原因で起こる疾患ですが、核にある遺伝子の変異が原因の場合と、ミトコンドリアの遺伝子(前述の通り、ミトコンドリアも独自のDNAを持っています)の二つの場合があります。発病の原因となる変異が、核遺伝子では200カ所以上、ミトコンドリア遺伝子にも100カ所以上見つかっています。

 ミトコンドリア病は国の難病指定を受けており、平成26年度に医療受給を受けられた方は1439名いらっしゃいます。人数は少ないですが、確定診断いたるまで非常に難しく、原因不明の症状で悩まれている方の中にもミトコンドリア病の方がいらっしゃる可能性があります。

 確定診断に至らない理由は、代表的な臓器症状が出現しなかった症例の場合です。例えば、中枢神経症や筋力低下、心臓の伝導障害等、ミトコンドリア病が危惧される症状が複数見られる場合は速やかにミトコンドリア病の遺伝子診断が行われます。しかし、部分的な症状しか認められない場合は、ミトコンドリア病の遺伝子診断は実施されることが少なく、そのため確定診断に至るまでに時間がかかることが多いのです。

 症状は、多くのエネルギーを必要とする筋肉や脳で出やすい傾向にあります。筋力が弱れば疲労感や、筋力の低下が起こります。脳の機能が低下すれば痙攣や脳卒中が起こります。また、心臓も筋肉でできいますから、多くのエネルギーを必要とする臓器であるため、症状が現れやすい臓器の一つです。心臓で現れる症状は、不整脈や心不全となります。ミトコンドリア病の怖いところは他の臓器にもその影響が及ぶことで、ホルモンの分泌不全、血管細胞が原因となる疾病を引き起こしやすいのも特徴です。例えば、糖尿病、高血圧、腎不全、便秘、下痢、低身長などなど現れる症状は様々です。

ミトコンドリア病の主な症状

 治療は、基本的に対症療法となります。臓器に症状が現れている症状に応じて、その症状を緩和する最善方法が選択されます。また、弱っているミトコンドリアの機能を助けてやろうという治療も試みられています。私がこれまでまとめてきたミトコンドリアの説明では詳しく述べなかったのですが、ATP合成反応では酵素が働いています。酸素呼吸の酵素にはビタミンB群を中心とするビタミン群の手助けが必須です。このように、酵素の働きを手助けする物質を補酵素(酵素の働きを補うという意味で)、ナイアシン、ビタミンBa、ビタミンB2、リポ酸などの酸素呼吸に働く酵素の補酵素を補うことで、ミトコンドリアの機能を向上させようとする治療方法も研究されています。

 特に期待されるのは、平成30年1月10日の発表で熊本大学が科学技術振興機構との共同発表として『難病「ミトコンドリア病」発症の原因解明』の研究に着手するとのプレス報道です。熊本大学のグループは世界に先駆け、タウリンがミトコンドリアの蛋白合成に重要である点に着目し、ミトコンドリア病の新薬の開発研究に着手しています。その成果が待たれるところです。平成30年1月10日実施熊本大学、科学技術振興機構(JST)プレス発表へのリンク以下の通りです。 https://www.jst.go.jp/pr/announce/20180110/index.html

娘よ、ゆっくり大きくなりなさい

 関連する2冊の本を紹介します。まずは、掘切和雅先生が書かれた『娘よゆっくり大きくなりなさい ミトコンドリア病の子と生きる』です。この本は子供を患者さんにもつ父親の立場から書かれた本です。難病の子供さんを受け入れて、愛して育む様子がつづられています。私も父親の1人として共感できる点、気付かされる点が多々あった著書です。新聞に連載されていたので、読まれた方がいらっしゃるかもしれません。

ミトコンドリア病診療マニュアル

ミトコンドリア病診療マニュアル(2017) [ 日本ミトコンドリア学会 ]

『ミトコンドリア病診療マニュアル』は専門書であるため難解かもしれません。ミトコンドリア病の現状を網羅されていたため、今回まとめるに際して購入し、参考にさせていただいたので挙げておきました。

 炎症のお話に進みたいのですが、ミトコンドリアのお話が続いています。ミトコンドリアは最近急激に研究が進んできた器官であるため、まとめたいことが山のようにあります。次回もミトコンドリアのお話をさせてください。



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